ウォルマートのチーフ カスタマー オフィサー( CCO)新設から考える世界のCCO事情

 by 弘子ラザヴィ

 

ウォルマートの決断:チーフカスタマーオフィサ(CCO)新設

 

Walmart社がCCO(チーフ カスタマー オフィサー)職を初めて設け、American Express社のエグゼクティブだった ジェニー・ホワイトサイド氏が8月1日から就任することが先日発表されました。

 

ジェニーって誰?

 

と興味深々で LinkedInを見たところ、彼女自身による就任発表投稿を発見!1000件超の”Like” と200件超のコメント(投稿後2週間現在)から、米国でもとても話題性が高いことが伺えます。以下は彼女の投稿の和訳です:

 

「この度、私はWalmart社へ参画することになりました。今、とてもワクワクしています。彼らは素晴らしく才能あるチームです。小売り業の事業環境は大きく変化しており、今はまさに業界として大きな転換点の最中です。

私がAmerican Express社で20年超にわたる経験から学んだことは、エンド2エンドで素晴らしいカスタマー体験を提供することが何より最優先に重要だという点です。

CCOという新しいポジションは、Walmart社にとって大きな第一歩です。カスタマーを常に中心に据えて考え行動することへの会社の並々ならぬ情熱を反映しています。グレッグ・フォラン(訳者注:Walmart U.S.社のCEO)とマーク・ロア(訳者注:Walmart eCommerce U.S.社のCEO)が言う通り、「カスタマーを第一に考えて行動すれば必ず成功する」のです!」

 

今回はこのニュースを踏まえ、Customer Success Japan (当サイト)を運営する弘子ラザヴィ(私)として、私が個人的に思うところを、世界のCCO事情データと共にご紹介します。

 

 

1. ノン-テック業界の伝統的大企業にもカスタマーサクセスがいよいよ不可避に浸透

 

いよいよWalmart社が動きました。

 

GoogleやFacebookといった業界破壊者(disruptor)ではなく、テクノロジー会社でもなく、ベタベタな小売り業界で長年トップに君臨してきた伝統的な大企業です。

 

明らかに Amazon社対抗です。 売上 約55兆円(2017)を誇る業界の雄が、売上 約20兆円(2017)の破壊者に怯えています。

 

世の中のデジタル化と共に消費者の期待・嗜好・行動が大きく変化しました。今や、安くて良いものを便利に買える、だけではダメで、ワクワクする・感動するショッピング体験を提供し、彼らを「それ無しでは生活できない」域のファンにできなければ、やがて会社の寿命が尽きる、という時代に今、あらゆる業界が突入しています。

 

Walmart社の新設CCOに着任するジェニーさんは、オフラインの実店舗とオンラインショップ(EC)とをリンクさせたカスタマージャーニー全体を最適化しシームレスなカスタマー体験を提供すること、それによる新規カスタマーの獲得とECの売上拡大に責任をもつそうです。

 

この職務内容だけ聞くと、なにやら全くニューな感じに聞こえないですよね?

 

日本でも「オムニチャネル」というバズワードと共に「シームレスなカスタマー体験を提供します!」というお題目は、もう数年前から何度も耳にしています。

 

それほど、言うは易しで、大企業でこのお題目を真の意味で実行することは、かくのごとく難しい、ということでしょう。

 

現在、同ニュースを伝える各社の論調は「Walmart社にとり大きな第一歩だ!」と、概ね好意的です。

 

俗に「C-Suite /C-レベル(注:各社に1名のみの最高責任職。CEO、CFO、CMOなど)」と呼ばれる、企業におけるトップ of トップな職位「CCO(チーフ カスタマー オフィサー)」ならば、カスタマー起点の大胆な戦略を実行に移せる、と皆さん期待するからでしょう。

 

逆に言えば、CCOをもってしても大企業の組織の壁を打破できないならば、業界王のWalmart社ですら死を免れない、という現実が待ち構えています。

 

着任数か月後にジェニーさんが打ちだす戦略を聞くのが楽しみです。

 

2. 「上級経営職は内部昇進」が不文律な伝統的大企業が CCOを外部から採用

 

Walmart社が初めて置いたCCO職に、外から採用した人材が就く、というのも注目に値します。

 

現場が命な小売り業の Walmart社では社内昇進が基本です。外から来て、いきなりCxO職に就いた人は皆無と思われます(少なくとも現職の上級経営層/CxOの方々は、買収された会社の元CEOを除き、最低でもシニアVP職で採用され、又はたたき上げで昇進され方ばかりです)。

 

要は Walmart社の文化やお作法、現場や働く人たちのことを熟知し、Walmart社での実績を周囲に認められて上級経営職に昇進せよ、が不文律なのです。

 

そんな不文律を破り、外からCCOとして舞い降りるジェニーさん。

 

彼女の採用を決めた経営陣の苦渋の想いや、迎える同僚の方々の「ジェニーって誰??」という好奇心(人によっては警戒心?)があろうことは想像に難くありません。

 

そうまでしてこの人事を決めた理由は、やはり今のWalmart社が必要とするCCO職を務められる人材が社員約70万人の中に1人もいなかった、ということでしょう。同時に、組織の不文律を超えてでも外から最高の人材を迎え入れなければ絶対に失敗する、という危機感の表れともいえます。

 

もう1つ注目すべきは、彼女の着任先です。

 

彼女は Walmart社の本社があるアラスカ州ベントンビルではなく、2年前に同社が買収したJet.com社の本社があるニュージャージー州ホーボケンを拠点にする予定です。American Express社での20年超に渡るキャリアの大半(2002~現在)をニューヨークで過ごし、現在もニューヨーク居住のジェニーさんにとり、その点は英断の助けになったことでしょう。

 

でも私はこれを知った時、即「おお、出島戦略だ!」と思いました。

 

大企業が、長年培った文化と大きく異なる「変化」を取り入れようとする場合、本社や多数派の中では変化の芽が摘まれてしまうため、あえて変化の芽を本流から物理的に離す、のはチェンジマネジメントの常套手段です。たとえばGEは、GEデジタルの拠点を敢えて本社のあるコネチカット州でなく、遠く離れた西海岸のベイエリアに置きました。

 

そこまでよくよく配慮された今回のCCO職、周囲が期待するのも納得です(私も期待しています!)。

 

3. CCO職を設置する企業数は増えている上で、大手優良企業ほどCCO設置率が高い

 

ジェニーさんの話をきっかけに「そもそもCCO職って今どういう事情?」と興味がわき調べてみました。

 

CCOカウンシルの独自調査(CCO Study 2014)によると、公表資料(英語限定)ベースで認識できる範囲で CCOを置く企業は現在約500社。2003年には 20-30社のみだった過去に比べると200倍の増加率です。

 

 

加えて、フォーチュン100にランクされる企業の設置率は22%。フォーチュン500の10%に比べ、優良企業ほどCCOを置いていることが分かります。

 

 

企業規模でみると、当初は大企業に在籍するCCOの比率が高かったのが、最近になるほど小規模企業がCCOを積極的に設置し始めている様子が伺えます。

 

 

業界的には、圧倒的にソフトウェア会社やテクノロジー会社が多いです。しかし一方で、小売り・金融・教育・ヘルスケアなどのノンテック業界にも幅広くCCOが在籍していることから、CCOは特定業界に特有の職位ではないことも明かです。

 

 

 

個人的には、元気なスタートアップ(中小企業)がCCOを置く(というか必須?)と想像していました。しかし現実は、大きな優良企業こそがCCOを置く、が世界の実態のようです。

 

日本の統計を一度見てみたいところです。

 

4. CCOはキャリアとして魅力的な新興ポジション

 

同調査(CCO Study 2014)によると、CCOは他のCxO職に比べ平均在職年数が短い(平均35か月)点も特徴的です。登場したばかりの新興職位ですので不安定さがあることに違和感ないですが、逆にCCOを3年も務めるとベテラン経験者になれる、と考えれば、チャレンジし甲斐がありそうです。

 

 

定点観測しているCCOカウンシルによれば、登場初期にCCOに就いた一期層にとりCCOは「最後(上がり)」のポジションだったが、最近就任し始めた若いCCOは、CCOキャリアを踏み台に更にキャリアアップする傾向(同じ会社のCOOやCEOへ昇進、または他社のCxOにヘッドハント)があるそうです。

 

小売り業では、米百貨店を展開する Kohl’s社にCCOとして5年前にヘッドハントされたミッシェル・ガス氏が、CCOとしての功績を認められ2018年5月に同社のCEOに抜擢された事例が新しいです。Ann Taylor や LOFTを手掛ける Ann Inc.社、Starbucks社、Cigna社を経て、Kohl’sのCCO→ CEOに就任した彼女のキャリアは、一貫してカスタマー重視な会社で経験を重ねポジションを上げた良い例です。

 

最後に話をジェニーさんに戻します。

 

彼女は 1993年に大学を卒業。新卒で入社した会社を経て、1997年からAmerican Express社で20年超の経験を重ね、Walmart社に大抜擢されました。

 

おそらくまだ40歳後半。経験と体力が丁度バランスし、ビジネスパーソンとして脂ののった(?)女性と思われます。ぜひ Walmart社で功績をあげ、「その次」を華々しく重ねてほしいなあと、同じ女性の1人として願います。

 

(以上)

 

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